予習無しの特攻人生!

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シルバーアーク・4

いにしえの時代、魔女狩りが発展し人々は争いを築いた
『ソラ』を包み込む戦争であった
そして、魔術師を名乗るものたちと普通の人間たちは共存の道を歩んでいた

それが古代の石碑に描かれ、そして書かれていた
その石碑を高値で買い取ったのが、この『魔術師の館』の館主である
黒衣を纏った彼女の名前はハルカ
魔術師連中では、先を予測する目を持つことから『先駆者』と呼ばれている
周りの普通の人間には奇人扱いされている

いつの世にも差別は無くならないのである

薄暗い部屋で石碑を眺めるハルカ
それは部屋というより物置だった
彼女にとって必要な物をひたすら置いてあるだけの部屋
そこに生活的な物があるとすれば、それは適当に散乱している食物だけだ

扉が開く

「今日は少し早かったな」
ハルカはそれに目を向けず、口を開く
ハルカの瞳には力があるが、それは強力過ぎるもの
その瞳は子供ならば殺せる瞳
冷たい瞳
悲しい瞳
「俺は朝型だからな。夜型の君の生き方は一生分からないよ。だから遅刻もせず、むしろ俺は早く来るのさ」
入ってきた存在はフォンだった
「遅刻は私の専売特許さ。先が見えても動くに追い付かない。まぁ、面倒くさいということもあるが」
ハルカは瞳を向けずに会話を続ける
そんなハルカの目の前にシルバーアークが姿を現した
「彼を見てやってくれ」
フォンは言う
「もちろんそのつもりだが、君は一つ勘違いをしている」
ハルカはフォンに瞳を向ける
フォンはその瞳に動じない
「彼ではない。彼女だ」


シルバーアークを修理するそのスペースは魔術師の館の地下にあった
その部屋は薄汚れていた
シルバーアークと同型の鎧が無数に散乱している
なんの攻撃を受けたのかそれらはボロボロで、全壊しているものすらフォンの目に入る
そして、天井には何のか分からない骨がぶら下がっていた
人間の背中のところに人間には存在しない骨が付いている
それが人間の骨でないことは誰の目にも明らかである
ハルカはその骨を掴み、まるで知恵の実を掴んだ最初の人間のように興味を丸出しで見ていた
やがて彼女は冷たい瞳をフォンに向け、口を開く
「アークスたちはこれと同じ、竜の子供の骨を基盤にしてつくられている」
「それ、前にも聞いたな」
フォンは微笑みながら口にする
「しかし、シルバーアークは…」
鎧が外されていく
そこには…

「人間の少女の骨を基盤としている」

「それも聞いた」
そんなフォンの応対に構わず、ハルカは指をさす
その指はシルバーアークの中身をさしていた
「これを見たらそれが確信に変わるはずだ」

フォンはそれを見て、本日初めて動じた
そんなフォンに構わず、ハルカはシルバーアークの点検を開始する

シルバーアーク・3

「私はあなたを責めない」
その一言にフォンは救われかけた
しかし、フォン自身がそれを許さなかった
自分が犯した罪から逃れるのが彼にとって大罪だったからだ

人には罪悪感というものがある
罪悪感は他人を苦しめる
苦しめられる人間はそれだけのことをした
長年苦しもうが、それはその人間のせいである
罪は罪であり、いかな罪においても罪悪感は平等にやってくる
平等に罪悪感を受け止めさせられ、その罪悪感をどう感じるかはその人間一人一人の感性による
快感を得る者、生きることをやめる者
様々である

フォンという男は罪悪感によって今の生活を成り立たせている
かつて最強と言われた騎士である彼が、今では城及び軍に追われ
ボロ屋で料理をしている

「今日は目玉焼きに挑戦だ」
フォンはキッチンでフライパンをぎこちなく動かしている
ぎこちないのは何故か
それは彼の目玉焼きの作り方が特異だからだ
殻の被ったままの卵がフライパンの上で踊っている
回りかたからして中身は生卵では無い
生卵の回転数はそんなに多くないが、フライパンの上にある卵は異様に回っている
挑戦虚しく、彼は準備の段階で既に負けていた
その滑稽な姿を笑うことなくただ黙って見守るシルバーアーク
ノリの悪いコントである

満足行くまで卵をフライパンで熱し、手を止めるフォン
これでは火の無駄使いである
フライパンの上から取り出される卵
フォンは触るやいなや、あまりの熱さに全力で捨ててしまった…

料理音痴
いや、違う
彼はこの世界で生を受けてからあの事件が起きるまで、一度も騎士としての生き方を変えなかった
正々堂々と相手を『殺し』続けてきたのだ
破壊しか知らない者が、モノをつくることなどできない
いや、容易くない
彼はその生き方に背を向け、歩く方向を変えた
料理は今の彼にとって新しい戦いなのだ
彼は新しく生きる方向にむかって走っていた

いや、迷走していた


この新たな家は金目のものが一つも置かれていない
過去に泥棒に入り込まれ、散々荒らされておりその傷跡が今も残っていた
ふと、フォンは思う
傷だらけという点では自分とこの家は似ている


そしてこの家の生活が3日過ぎた頃
フォンはタキシードをいつもよりしっかり着こなし、サングラスを掛けてシルバーアークと共に夜の道を歩きだした
シルバーアークには偽装用のコートが着されている
彼らはこの家からはかなり距離があるところへ向かっている
道中、シルバーアークが犬に吠えられたりしたが、無事に目的地に着いた

そこは裏通りの一軒家であった
周りからは奇人、変人の家と言われ人間は滅多に寄り付かない

『魔術士の館』である

この国では魔術士の人口が激減していた
魔術の基となる様々な元素がこの国の周辺では枯渇しているのだ
それ故、この国 ボストークでは魔術士は激減
いるとすれば、それは生活で使える最低限しか使えず
いるとすれば、その魔術士はかなりの魔力を持っている
この館にいるのは後者だ

シルバーアーク・2

今から言うことには矛盾があるかもしれない
その矛盾が分かるものはこの世界の窮屈さを知る


この世界で街に生まれてきたことは幸せである

『英雄西暦』と呼称された時代
自らを英雄と名乗るものたちが己の強さを見せびらかすために街の外の砂漠で決闘した
国々はその英雄を賭けの対象とした
その中で生まれる憎悪にも気付かずに

決闘が戦争になったのはいつの日か
『英雄西暦』は戦争の歴史
街に生まれたものは幸せである
城で生まれた騎士たちは戦争に
村で生まれた村人たちは戦争に巻き込まれ
街は経済などによる世界の要
街に攻撃をすることは条約違反なのだ

フォンという男は城で生まれた騎士だった
今は何故だか密かに街の中で暮らし、軍から逃げていた

タキシードを着た男を人は騎士だとは思わないだろう
つまりはアレは偽装なのだ

フォンは今まで暮らしてきた家を捨てた
埃を家の隅々に舞わせ、誰かが住んでいたという痕跡を消し、白銀の騎士シルバーアークと共に新しい家を探す

シルバーアーク
この人間離れした性能は何か
彼は人ではなく、騎士であった
少子化により、城は騎士を失いつつあった
ある城は徴兵令をしく…これは負けそうな城とその街だ
ある城は児寺院や教会と連携して子供を多く集める
ある城は機械による騎士を造る
アークスと呼ばれる物が、シルバーアークを含むその機械たちの名前だ
このアークスを使う城はまだ数える程しか存在しない
この城、この街、この国は裕福で戦争に勝っていることが分かる

しかし、アークスを大量生産する力はこの国には無かった
城は大量のアークスを作っている国があることを知り、焦りを見せている

この城 ボストーク城
この街 ボスティア街

そこにフォンは生きていて
シルバーアークと共に歩いていた

新しい家を見つけるために物件屋に向かっていた
フォンと物件屋とは顔見知りで軍から逃れる手伝いをしてくれている
物件屋の名前はパッセ
フォンとは長い付き合いである

「フォン、今度はココはどうだ?古屋だが城から一番遠いぞ」
ソファーとソファー
向かい合って座っている彼らは話をしている
新しい物件の話である
シルバーアークはその部屋の脇の方で突っ立っている

「だが、古屋すぎれば痕跡を残さずにいくのが難しくなる・・・そこは完璧な古屋だからな」

その古屋は50年位前まで大富豪が住んでいた豪邸である
しかし、財産を受け継ぐものがいなかったその大富豪は病気で倒れてしまった
医者からは遠くに建てられた家故、歩いて病院に向かっている最中に死んでしまったのだという
それ以来その家は泥棒に入られて何から何まで盗まれた
今では誰も住んでいない
理由は場所的にかなり不便だからである

フォンは自分で料理が作れない人間なのでお断りであった

「じゃあココならどうだ」

井戸の中で人が暮らすという古典的RPGの流れを組んだ家を指さされた

「日の光が恋しくなりそうだ」
「あのなぁ、文句が多いぞ・・・金無しのお前に提供してやってるんだぞ?」
そう言われると弱いのがフォンの方である
フォンは軍から逃げいているので迂闊にアルバイトすらできない
稼ぎ無しのこの男に住む家を提供するのは難しい

今まで暮らしていた家は幽霊が出ると噂され、売れなかったから彼が使っていたのだ
ちなみに幽霊の噂はデマらしい

「パッセの家に少しばかり泊めてもらうとかは無理か?」
「俺の家は奥さんいるから無理だ」

即答である


仕方なくフォンは古屋を住居とすることにした
文句は言えない

彼がこれから学ぶべき事は理の通った文句では無い
料理であった

シルバーアーク・1

「少年少女たち、助けて欲しいかな?」
男はまるで自分がこの状況を打開できるかのように相席していた子供たちにそう言った
状況は最悪だ
レストランにいた全ての客が人質にされ、街の治安を守る『警察』という組織は手を出せないでいた
犯人グループは重火器で武装しており、この街を守る『警察』は相手としては役不足であろうと誰もが感じる
「少年少女たち、助けて欲しいかな?」
男はまた言った
黒髪という、この街では珍しくも無い髪色の彼はだらしなくタキシードを着こなしている
ソーセージを挟んだパンとコーヒーが彼の座っている机においてある
男はタキシードに継ぎ、座り方もだらしなかった

この男はなんなのか?
少年少女たちの瞳には何に映るのか?
英雄か馬鹿か
少年少女たちはそれでも明日を信じている
信じて、念じる・・・魔法の言葉

「生きたい!」

少年少女たちは叫んだ
その叫びは心からの叫び
その叫びに犯人グループが反応する

「ボーヤたち・・・何言っているんだ?おれたちゃ別にお前らをとって食おうなんて思ってねぇよ」
犯人グループが正体を隠す為のマスクは骨の絵が描かれていた
子供にとって今はその絵ですら恐怖の対象であった

子供たちに保護者はいない
彼らは孤児院出身であり、貧しい生活を嫌って孤児院から逃げて来たのだ
その際、辿り着いたレストランで起きたこの事件
孤児院で平和に暮らしていればこんなことにはならなかったと、彼らは思っていた

一人が恐怖で泣いた

その一人に男はコーヒーを渡す

「苦いが恐怖という痛みから逃れるにはこれ以上に無い味だ・・・飲みな」

「おい、お前!動くんじゃねぇ!!」
男は犯人グループたちに銃を向けられる
骨の顔を持つ犯人グループ
まるで特撮番組の悪の戦闘員だ
そしていつもその中心にいるのは、守られるべき弱き人か
戦う英雄である

凄まじい音が響く

レストランの天井が破られ、何かが降り立った
その何かは銀の色を持ち、人間より少し高い大きさであった
その姿は鎧の騎士であった

しかし、そこに生気は無い
生物には全く無縁のコードやらギアやらがついている

「シルバーアーク、奴らを倒せ・・・だが、殺すな」
「OK,MY MASTER」

機械的な声が響き、一瞬の出来事が起きた
騎士は鎧の腰の部分を展開し、中から現れた大太刀が光る
峰うちによる強力な打撃が次々と犯人グループを蹴散らしていく

「こ、こいつ・・・人間じゃねぇ!?」

銃弾が効かないと見るや弱音を出す
それは武器に頼った戦い方である
彼ら自信には全く戦闘能力が無いのだ

最後の一人が苦し紛れにバズーカ砲を装填していたが既に砲身が切り裂かれていた




「偉いぞ、シルバーアーク・・・」
男は鎧の騎士を褒める
騎士は無言だった
警察の事情聴取をかわして、男と鎧の騎士は帰路へとつく

「本当はお前を戦わしたくは無いんだがな」
男は悲しげに言う
その瞳は遥か彼方を見ていた


男は自宅へ着くと、留守番電話が入っていることに気づく
男の自宅は大きなソファーがあり、テレビがあり、電話がある
電話とテレビはかなり旧式であった
それ以外は何もなかった

「フォン・・・軍の連中がお前の家を嗅ぎつけてきたみたいだぜ
 俺が空き家だって言っといたけど限界かもな」

留守番電話は男の友人からであった